フランスにおいて季節は何の前触れもなく変化します。特に秋。10月までは夏の名残りが感じられる日があったりしますが、11月に入ると急に寒くなります。この時期は一気に10度くらい気温が下がることがあり、短い秋をかき消すように、一気に冬が到来します。
ボードレールの詩「秋の歌 Chant d’automne 」には、薪を積み上げる音が活写されています。冬に備えて中庭に薪を運び込み、積み上げるのが19世紀のパリの秋の行事のひとつだったようです。その薪の束が地面に落ちる音を、断頭台を築く音や、城塞を打ち壊す大きな槌の音になぞらえ、秋を不吉なイメージによって描いています。暖房が完備している現代とは違って、それだけ到来する冬が死のイメージを喚起する厳しいものであったことを意味するのでしょう。
ところで、フランスの秋をイメージさせる歌といえば、「枯葉 Les feuilles mortes」がまず挙げられるでしょう。最近は「枯葉」を知らないという若い人も多いですが、一昔前はシャンソンの定番でした。ジャック・プレヴェールという詩人が詞を書いてます。一部を紹介しましょう。
En ce temps-là la vie était plus belle, あの頃、人生は美しかった
Et le soleil plus brûlant qu’aujourd’hui. 太陽は今日より輝いていた
Les feuilles mortes se ramassent à la pelle, 枯葉はふきだまってる
Les souvenirs et les regrets aussi 思い出や後悔と一緒に
Et le vent du nord les emporte そして北風がそれを運び去る
遠く過ぎ去って戻ることのない愛への追憶を、季節の移り変わりを重ね合わせながら歌っています。「枯葉」は第二次世界大戦後のシャンソンの代表的な曲として、フランス語の原詞のほか、英語や日本語をはじめ各国語の歌詞に訳されて、広く歌われています。また、ジャズの素材として多くのミュージシャンにインスピレーションを与え、数え切れないほどのレコーディングが存在します。
「枯葉」のジャズ版の定番は、マイルス・デイヴィスのアルバム ”Somethin’ Else” でしょうか。レコード会社の絡みでマイルスがリーダーではなく、キャノンボール・アダレー名義で出ています。みなさんもどこかで耳にしたことがあると思います。ピアノだと、ビル・エバンス、キース・ジャレット、チック・コリアなんかがお奨めです。原曲のメロディを頭にしみ込ませてから聴きましょう。メロディを知っていて初めて演奏の崩しかたやアドリブが面白く聴けますから。サラ・ヴォーンのスキャットもぶっとんでいて素晴らしいです。温かみのある「枯葉」ならば、カーティス・フラーの “South American Cooking” に収録されているものが良いでしょう。フラーのトロンボーンとズート・シムズのテナーはこたつでお茶を啜りながら居眠りしたくなる、まさに「枯れ」の境地です。
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