ジビエとは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉のことを指します。山野を駆け巡り大空を舞った天然の肉は、脂肪が少なく引き締まり、栄養価も高い、まさ に自然からの贈り物です。フランスの食通で『美味礼賛』を著したブリア=サヴァラン(1755-1826)はこれらの肉を「聖なる、情熱的な、味わい深い 食物、高尚な風味を持ち消化も良い食物」としました。
野生の鳥や獣たちが長い冬に備え脂肪を蓄えた秋から冬にかけて、狩猟は解禁されます。通常は獲ってすぐに食べるのではなく、数日をかけて熟成 (faisandage)をさせてから調理します。野生のカモなどは目に蛆がわき、首が落ちるくらい熟成させるのが良いと言われます。その昔、ジビエを 使った料理は、自分の領地で狩猟ができる上流階級の貴族の口にしか入らないほど貴重なものでした。フランス料理界では高級食材ですが、野生の風味が強烈で 癖があり、その調理には手間がかかるため、これらの肉を使った料理は今も高級レストラン(ミシュランの星付きのレストラン)の季節限定のメニューとなって います。この時期フランスに行く予定がある方は、赤ワインと相性抜群のこれらのメニューをぜひ試してみてください!
さて、一口にジビエと言いますが、鳥類のジビエ・ア・プリュム(le gibier à plumes 羽つきジビエ)、ほ乳類のジビエ・ア・ポワル(le gibier à poils 毛皮つきジビエ)に分類されています。ジビエ・ア・プリュムでは、野生のカモ(canard sauvage)、真鴨(canard colvert 普通のカモより味が濃い)、雉(faisan)、山ウズラ(perdrix、perdreaux は若鳥)、山シギ(bécasse 商用には狩猟禁止)などが、ジビエ・ア・ポワルでは、野兎(lapin de garenne, lièvre、lapin より臭みが強い)、猪(sanglier)、子猪(marcassin)、雌鹿(biche)、ノロ鹿(chevreuil)、雌シカ(biche)、雄シ カ(cerf)、ダマシカ(daim)などが挙げられます。カモ canard やウサギ lapin は家禽化されていることから厳密に言えば野生というジビエの定義からはずれますが、ジビエと呼ばれています。このお店のように、フランスには、日本では禁猟であるライチョウ(grouse)が食べられるレストランもあります。
ところで、野生鳥獣による農作物被害の深刻化にともなって、日本でもイノシシやニホンジカの捕獲に取り組んできましたが、捕獲された獲物を食肉とし て利用するケースは稀でした。そこで、いくつかの県では、捕獲したイノシシやシカを地域の貴重な食資源として、レストランでの利用や観光振興に活かそう と、解体処理施設や食肉流通システムの整備を進めています。特にジビエは寄生虫や細菌感染の問題があるので、長野県などでは適切にシカの肉を処理・加工し ている施設の認証を行っています。日本人にとってもジビエは身近なものになりつつあるようです。
注):中世には、狩猟に行く aller à la chasse の意味で aller en gibier と言われていましたが、16世紀には gibier という語は狩猟で獲られた鳥獣を指すようになりました。
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