毎年7月から8月にかけ、フランス人は一ヶ月に及ぶ長いヴァカンスを取り、家族や友人と海辺や地方に出かけ、そこでのんびりと長期休暇を楽しむのが慣例です。
パリではパリジャン・パリジェンヌの姿よりも観光客の姿が多くなりますが、日本の蒸し暑さを逃れ、涼しく乾燥した気候のパリを拠点に夏を過ごすのも快適です。パリを十分に堪能するためには1カ月でも足りないくらいですが、パリにちょっと飽きたら、日帰りや1泊旅行もできる名所まで足を伸ばしてみましょう。
パリには海がないので、海が楽しめる場所がいいですね。例えば、外国人観光客のみならず、フランス人観光客でも賑わうモン・サン・ミッシェル Mont Saint-Michel などはいかかでしょう。
1979年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されたモン・サン・ミッシェルは、海に浮かぶ修道院として知られ、ことに対岸から見るその夜景は、幻想的な美しさで、一見の価値ありです。石造りの建物の主要部はゴシック様式ですが、さまざまな中世の建築方式が混ざり合って構成されており、ガイドに複雑な迷宮を案内され、いくつもの扉をくぐってゆくと、突然空中庭園のような場所に出たります。
満潮時に「孤島」になるモン・サン・ミッシェルは、1877年に対岸との間に地続きの道路が作られ、潮の干満に関係なく島へと渡れるようになりました。しかし、これによって潮流がせき止められ、砂が堆積したため、島と対岸が陸続きになるのも時間の問題と言われていました。
かつての姿を取り戻すため、2009年にこの地続きの道路が取り壊されたのですが、実はちょうど今年の7月22日に、新たな橋が開通したのです。今回新たに開通する橋は全長760メートルで、潮の流れをせき止めにくい構造になっており、本来の「孤島」の姿を回復する交通手段として期待されているそうです。総工費は2億3000万ユーロ(約312億円)に上るとのこと。
モン・サン・ミッシェルのある海岸はヨーロッパでも潮の干満の差が最も激しい所として知られています。最も大きい潮が押し寄せるのは、満月と新月の28-36 時間後といわれており、引き潮により沖合18kmまで引いた潮が、猛烈な速度で押し寄せます。中世の巡礼者は、広大な干潟を歩いてモン・サン・ミシェルを目指しましたが、潮が満ちるタイミングを読み誤れば、あっという間に波に飲み込まれてしまいます。そのため人々は、巡礼の前に遺書まで書いていたと言います。このスリルが聖地としての評判と価値を高めたのでしょう。
モン・サン・ミッシェルに行く拠点になるサン・マロ Saint-Malo という中世からの城塞の町があります。サンマロの浜辺で目撃した、朝方堤防まで来ていた海水がみるみるうちに後退し、沖合にある島まで干上がってしまう光景は圧巻でした。突如出現する広い砂浜を歩き回るのも楽しいですし、夜に城塞の中を散策すると中世の時代に入り込むようで、サンマロもお奨めの町です。
サン・マロはランス川(la Rance)の河口に位置しますが、少し川をさかのぼった場所に、世界で最初に建設されたランス潮汐発電所があります。この地域は潮の満ち引きの差が15メートル以上、平均でも 8メートルあります。つまり、月や太陽の引力がもたらす潮汐力が海水の移動エネルギーとなり、それを電力に変えているわけです。発電時に二酸化炭素の排出がないという点で環境にやさしい発電方法なのですが、月の引力で生まれる電力って何だか神秘的ですね。
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