今回紹介するアヌシー(Annecy)はスイスとの国境近い、アヌシー湖の湖岸にある町です。パリに次いで地価が高いと言われ、ブルジョワな香り漂う魅力的な町です。アヌシーの街は大きく2つに分かれ、ティウー運河le Thiou 沿いの迷宮のような旧市街と、北に広がる整然とした新市街が対照を成しています。観光名所として、アヌシーの写真で必ず登場するシンボル的なスポットが、運河に浮かんだパレ・ド・リル Palais de l’Ile です。12世紀にアヌシーの領主の邸宅として築かれ、その後、役所や牢獄や裁判所として使われ、今は歴史博物館になっています(写真は定番のアングルからではなく、向いのレストランの2階からの眺め)。
ブルジョワな香りはアヌシー湖の奥に向かうとさらに強くなります。アヌシー湖沿いに車で30分くらい行くと、タロワールという別荘地があります。美しい膝を持つ少女と膝フェチ外交官が出会う物語、エリック・ロメールの『クレールの膝』の ロケに使われたことで有名です。また画家のセザンヌが晩年滞在し、『アヌシー湖』(1896)という代表的な作品を残しています。セザンヌが滞在した修道院は今は「ラベイ・ドゥ・タロワール」という高級ホテルに姿を変えていますが、驚くことに、その経営者として俳優のジャン・レノとブルース・ウィリスが経営者に名を連ねています。
こじんまりとしたタロワールの中心街は中世の雰囲気を残しつつ、夏の花にあふれていますが、手入れの行き届いた街の清潔さは税収の潤いによるものでしょうか。また町の中を無料のシャトルバスが巡回し、買い物や湖に泳ぎに降りていくのにとても便利です。レストランでボリュームたっぷりの子牛料理をいただきましたが、サヴォワ地方特産のルブロション reblochon というチーズのフライが添えられていました。
アヌシー湖は、スイスにまたがるレマン湖を除けば、ブルジェ湖に次いで大きな湖です。1960年代に始まる環境規制により保全され、世界屈指の透明度を誇るアヌシー湖の周辺は、様々な水上スポーツのメッカで、無数のヨットやボートが行き交います。一方、山の方に目を向けると断崖からカラフルなパラグライダーが次々と飛び立ちます。湖の周囲の山中にはトレッキングコースもあり、半日くらいのハイキングに最適です。冬にはスキーも楽しめます。アヌシーは実は2018年の冬季五輪の候補地として名を連ねていました。結局、ドイツのミュンヘンとともに韓国の平昌に負けてしまいましたが。
もうひとつ、アヌシーと言えば、毎年6月に『アヌシー国際アニメーション映画祭』が行われることでも知られています。 1960年にカンヌ映画祭からアニメーション部門が独立した、由緒正しい映画祭です。もちろん毎年、多くの日本の作品が出品されており、1993年には、宮崎駿監督『紅の豚』長編部門グランプリ、1995年には、高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』長編部門グランプリ、2007年には、細田守監督『時をかける少女』長編部門特別賞をそれぞれ受賞しています。
ところで、TGVでパリからアヌシーに向かうとき、リヨンを経由しますが、アヌシーの手前でシャンベリーという町に停車します。実はロバボンの店主はこの町に1年ばかり住んだことがあり、アヌシーにもよく遊びに行きました。シャンベリーは電車でアクセスできるアルプスの山々への玄関口で、かつてはサヴォイア家が支配した公国の都でした。今も11世紀に建造されたサヴォア伯爵家の城が残されています。他にもサヴォイア一族のものだったという豪華な邸宅が数多く存在し、19世紀以降に取り付けられた室内階段や美しい彫像を目にするでしょう。またサン・フランソワ大聖堂にはヨーロッパで最大幅のだまし絵(トロンプ・ルイユ)があります。サヴォイア家の歴史を知るには、かつてのフランシスコ会修道院の建物を利用したサヴォイア博物館がおすすめです。チーズ・フォンデューをはじめとした、サヴォイアの郷土料理もぜひ味わってみてください。
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